佐々木泉・水沼直己法律事務所 > 記事コンテンツ > 遺産分割協議で紛争になるケースとは?対処法について解説
相続の発生後、遺産分割協議で親族間に深刻な対立が生じるケースは少なくありません。不動産の評価額や生前贈与の扱い、介護負担の格差など、さまざまな要因がトラブルの火種となり得ます。
当記事ではよくある争点を紹介するとともに、事前にできる対策、問題発生時の対処法を解説していきます。
遺産分割協議では、相続人それぞれの立場や価値観の違いから対立が生まれがちです。特にトラブルになりやすいケースを理解しておくことで、適切な対策を講じることができるでしょう。
不動産は遺産の中でも特に評価が分かれやすい財産です。
同じ土地・建物でも、固定資産税評価額、路線価、実勢価格では大きく金額が異なります。
たとえば長男が実家を相続するとき、長男が「古い家だから価値は低い」と主張する一方で、ほかの相続人は「もっと高く評価すべきだ」と反論するケースが考えられます。
不動産を物理的に分割できない場合の対応でも対立が起こり得ます。売却して現金で分ける方法(換価分割)、一人が相続してほかの相続人に代償金を払う方法(代償分割)、共有名義にする方法など、それぞれにメリット・デメリットがありますので、相続人の意見が分かれやすいです。
親が生前特定の子どもに援助した資金に関して、「特別受益」として遺産分割で考慮すべきかどうかが争点になることがあります。
住宅購入時の頭金援助、事業資金の提供、結婚資金の援助の有無などを理由に、それぞれが「自分だけが援助を受けていない」と感じて不公平を主張することがあるのです。
特別受益として認められると、法定相続分の計算上、生前贈与で受けた金額は相続財産に持戻されます。そのうえで生前贈与を受けていた方は先に遺産をもらっていたとして、相続時点に受け取れる財産が少なくなり、特別受益を受けていない相続人は多めに取得できるようになります。
ただし、何が特別受益に該当するか、その金額をどう評価するかで意見が対立しやすく、スムーズに解決することは難しいです。
親の介護を献身的に行った相続人が、ほかの相続人よりも多くの遺産を求めるケースがあります。
実際に相続人が貢献したことで介護費用の負担が減り、相続財産の維持に寄与したのであれば、寄与分を主張することも法的に認められます。
※寄与分が認められると、その金額を相続財産から控除して各自の法定相続分を計算。寄与分が認められた相続人は、法定相続分に寄与分を加算した額が取得分となる。
しかしながら、前項の特別受益について争う場合と同じように、寄与分の有無やその金額に関しては争いが生じやすいです。
介護をした側は「自分だけが頑張った」と主張し、そうでない側は「私も身の回りのお世話をしていた」「金銭的援助をしていた」などと反論する可能性も考えられます。
被相続人の財産を正確に把握できていない場合もトラブルが起こる危険性が高まります。
複数の銀行口座、投資商品、現金、骨董品、借金など、相続財産の全体像が見えないまま協議を進めてしまうと、後から新たな財産が発見されて協議をやり直すことにもなりかねません。
また、一部の相続人が被相続人の財産管理に関わっていた場合、「隠している財産があるのではないか」という疑いが生まれて関係性が悪化することもあります。亡くなった方の遺言書を家庭裁判所にもっていく前に開封してしまったときにも「遺言内容を改ざんしたのではないか」と疑われる危険性があります。
※封をされている遺言書は、開封前に家庭裁判所へ持って行き、現状を確認する検認の手続きを行わなければならない。
遺産分割のトラブルを避けるためには、被相続人による生前からの準備と、相続人同士の関係性構築が重要です。
被相続人が前もって遺言書を作成しておくことが、多くの問題を未然に防ぐことにつながります。誰がどの財産を取得するのか、どの程度の財産を承継するのか、遺言書に記載した内容は遺産分割協議より優先されます。相続人による協議の負担も軽減することができるでしょう。
ただし、遺言書があっても内容に不満を持つ相続人がいれば争いは起こります。そこで可能であれば、遺言書の内容を生前に家族に説明し、納得を得ておきましょう。特に均等な相続とならない場合はその理由を周知しておくことをおすすめします。
相続の話題は避けられがちですが、定期的に家族で将来のことを話し合っておくことがトラブルの予防につながります。親の意向、各相続人の希望、家業の承継方法などを事前に確認しておきましょう。介護や財産管理の役割分担についても、早めに話し合っておくことで後の不公平感を軽減できます。
また、相続に関する話題でなくとも、普段からコミュニケーションを取り良好な関係性を維持しておけばそれだけでも相続開始後の揉め事は避けやすくなります。
相続税の試算、不動産の評価、遺言書の作成など、専門的な判断が必要な事柄については早めに専門家に相談することをおすすめします。税理士や弁護士などの助言を受けることでより効果的な相続対策を講じることができるでしょう。
遺産分割協議で揉めてしまったときの対処法としてポイントになるのは、「冷静に話し合うこと」「裁判所の手続き利用を検討すること」「弁護士に相談すること」です。
感情的になって意見をぶつけ合っても建設的な話し合いはできず、なかなか問題は解決できません。感情論ではなく具体的な根拠に基づいて議論を進めるよう注意してください。
当事者間で冷静に話し合うのが難しいときは、家庭裁判所に申し立てを行い、調停または審判の制度を利用しましょう。
調停では、調停委員が中立的な立場で話し合いを仲介してくれます。訴訟とは異なり非公開で行われますのでプライバシーも守られます。調停でも合意に至らない場合は審判に移行し、裁判官が法的な基準に基づいて分割方法を決定してくれます。
ご自身の主張を通したいというニーズがあるときは弁護士への相談・依頼をおすすめします。調停などでも裁判所が申立人の味方になってくれるわけではありません。特定の方の代理人として権利の主張・サポートをできるのは弁護士だけです。遺産分割協議について困っていることがあるなら早めに弁護士へご相談ください。