佐々木泉・水沼直己法律事務所 > 記事コンテンツ > 遺産分割をしない場合の相続
~不動産を共有名義とするリスクなど~
相続人が複数いるときは遺産分割協議を行うのが一般的ですが、これを行わなかったとしても遺産を取得することはできます。法律上、法定相続分が定められていますので、その割合に従って財産を受け取ることになるのです。
しかし不動産が共有名義になってしまうなど種々の問題が発生するため、リスクについても認識のうえ相続手続きに向き合う必要があります。
相続の基本的な仕組みは民法という法律で規律されています。この法律によると、遺産分割協議は強制されるものではなく、これを行わなくても相続人全員の共有財産として取得することが可能です。
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
なお、遺言書が作成されているときは原則としてその内容に従います。基本的には遺産分割協議より遺言書の内容が優先されますので、仮に「土地Aは次男に遺贈する」旨の遺言が残されていたとすれば、土地Aを除く残りの財産につき相続人全員で取得することになります。
承継する権利義務は相続分に対応する旨も法律上規定されており、次の割合(法定相続分)で各々が持分を持ちます。
共同相続人の組み合わせ |
法定相続分 |
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配偶者+直系卑属(子どもなど) |
配偶者1/2 |
直系卑属1/2 ※複数いるときは人数で均等にさらに分割 |
配偶者+直系尊属(親など) |
配偶者2/3 |
直系尊属1/3 ※複数いるときは人数で均等にさらに分割 |
配偶者+兄弟姉妹 |
配偶者3/4 |
兄弟姉妹1/4 ※複数いるときは人数で均等にさらに分割 |
なお、①直系卑属、②直系尊属、③兄弟姉妹は同時に相続人になることはできず、①から順に優先的に相続人となる権利を得ます。配偶者はどの順位の相続人とも共同で相続可能という特殊な立ち位置にあります。
遺産分割を行わないとき、遺産の一部である不動産に関しては相続人間で共有となりますが、すべての財産が共有状態になるわけではありません。
たとえば借金などの「債務」です。法定相続分に応じて当然に分割されるものであり、遺産分割協議を行うまでもなく各相続人が負担を負うことになります。
※相続人間の協議で内部的な負担割合を調整することは可能。ただし債権者から承諾を得なければ対外的な効力は生じない。
また、「可分債権」と呼ばれその財産の性質上分割ができる(預貯金以外の)債権も同様です。そして契約等により受取人が決められている「死亡保険金」や「死亡退職金」、「遺族年金」、「祭祀財産」に関しても共有財産にはなりません。
一方、「現金」や「預貯金」に関しては、容易に分割できるものではあるものの遺産分割の対象とされています。つまり不動産と同じように、遺産分割を行わなければ法定相続分での共有状態となります。
※そのため勝手に被相続人の現金や預貯金を消費してはいけない。ただし預貯金に関しては一定範囲内で払い戻すことも認められる。
相続が可能であるとはいえ、できるだけ遺産分割協議を行い各人の取り分は定めるべきです。共有名義で財産を保有し続けることでトラブルが起こる可能性がありますし、特に不動産の共有はリスクが大きいです。
不動産を共有名義で相続するリスク |
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全員の同意がなければ処分できない |
以下の行為を行うには共有者全員の同意が必要で、活用に制限がかかる。 ・物件の売却 ・質権の設定 ・大規模修繕や増改築 ・分筆、合筆などの行為 ・賃貸借契約の締結 |
一定の管理行為にも過半数の同意が必要 |
物件の使用方法の決定や短期の賃貸借契約の締結、賃貸物件における賃料の減額などの管理行為にも共有者の過半数の同意が必要であり、迅速な対応ができないおそれがある。 ※修繕、不法占拠している者への明渡請求などの保存行為であれば各自の判断で可能。 |
権利関係の複雑化 |
共有者の一部についてさらに相続が発生すると、その相続における相続人にまで共有の範囲が広がり、権利関係がより複雑になる。共有者が増えるほど合意形成も困難になってくる。 |
費用負担に関するトラブル発生の可能性 |
物件の維持管理費、固定資産税などの負担割合をめぐってトラブルが発生する可能性がある。たとえば共有者の一人がその物件で居住しているにもかかわらず等しい費用負担を求めていると、ほかの共有者が納得できず揉めることがある。 |
いったん共有状態になってしまうと今後の取扱いが難しくなってしまいますので、相続時点で遺産分割協議を行い、所有者を定めることが望ましいです。
共有を避けるよう相続人の1人が所有権を持つことが推奨されますが、この「現物分割」のほか、「代償分割」や「換価分割」というやり方もありますので専門家にも相談しながら相続の方法を検討すると良いでしょう。