佐々木泉・水沼直己法律事務所 > 記事コンテンツ > 勾留とは?刑事手続きにおける身体拘束の制度について
勾留は罪を犯した疑いのある人物を物理的に拘束するための措置であり、逮捕に引き続き長期的な身柄拘束を要する場合にこの処分が下されます。適正な捜査や裁判のために重要な仕組みである反面、被勾留者の権利侵害を伴うため、厳格に運用されるべき仕組みでもあります。
この勾留はどのようなシチュエーションで行われるのか、被勾留者としてはどのように対処すればいいのか、ここで勾留の基本をご紹介します。
「勾留」とは、被疑者または被告人の身体を継続的に拘束するための法的手続きを指します。
被疑者とはまだ起訴をされておらず刑事裁判に係らない段階の者をいい、被告人とは起訴後であり刑事裁判の提起がなされたあとの者をいいます。いずれの者に対する身柄拘束も「勾留」といいますが、起訴の前後で拘束期間などいくつか異なる性質を持っています。
この勾留の主な目的は、“逃亡や証拠隠滅の防止”や“刑事裁判を適正に進行させること”などにあります。
本来、被疑者や被告人などまだ有罪判決が出ていない者には無罪の推定がはたらくため、無罪の者である可能性にも配慮しなければいけなません。しかしながら、無罪の可能性があるからと常に自由にさせていては、その間に重要な証拠を隠されてしまったりどこかへ行方をくらましてしまったりする危険性があります。
このような事態を防ぐため、人権侵害にも十分留意しながら勾留制度は運用されています。
もし勾留を受けることになれば、拘置所、あるいは警察の留置施設へと収容されることになります。
勾留の要件は法律で定められています。
第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まった住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
そこで前提として、“罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由”が存在していなければ勾留をしてはいけません。単に「不審な動きがあったから」「何か怪しい」というだけで相当な理由があるとは認められず、証拠などを根拠に高度な疑いがかかっている状態を指しています。
この前提のうえ、以下3つのうちいずれかに該当することでようやく裁判所は勾留の決定を下すことができます。
以上の要件をもって勾留を行うことができると定められていますが、実際にはさらに「勾留の必要性がある」と判断されることも必要です。たとえば、証拠などから罪を犯していることが明らかであり住居も不定であれば形式上の要件は満たしますが、犯した罪が軽微であり勾留による影響が大きい(職を失う可能性が高いなど)場合などには交流の必要性が否定されることもあります。
勾留が行われる時期に応じて「被疑者勾留」と「被告人勾留」に分けることができます。
被疑者勾留とは、逮捕後の被疑者など、公訴(刑事裁判)の提起がなされていない段階で行われる勾留のことです。警察や検察による捜査の過程で行われ、検察が被疑者を起訴するかどうかを判断するための猶予期間として機能します。期間は原則として10日間で、さらに10日間の延長を行うこともありますが、それ以上の身柄拘束は認められません。
※特に重大な犯罪に限り再延長が認められることもある。
一方の被告人勾留とは、検察による起訴処分が出たあと、裁判中も身柄拘束を行う必要性がある場合に行われる勾留を指します。公判手続きの一環で拘束が継続され、期間は公訴提起から2ヶ月間と長期間に及びます。さらに継続の必要性があれば1月ごとの更新も可能です。
各勾留の大きな違いはやはり「勾留期間の長さ」といえますが、ほかに「保釈制度(保釈金を納めて拘束を解く手続き)の有無」という大きな違いも挙げられます。起訴前だと保釈制度が利用できませんが起訴後であれば保釈制度が利用可能ですので、裁判所の判断を経て保釈金と引き換えに自宅へ帰ることができる可能性もあるということです。
刑事手続きにおける身柄拘束といえば「逮捕」をイメージする方も多いかと思いますが、逮捕と勾留は明確に異なる仕組みです。
身体を物理的に拘束するという点では共通していますが、逮捕は捜査の初期段階で行われ被疑者を対象とします。また、拘束可能な時間は最大でも72時間と比較的短く、その間に勾留による継続的な身柄拘束を行うかどうかの判断をしなければなりません。
原則として裁判官の判断が必要であることも共通していますが、逮捕の場合は例外的に「現行犯逮捕」として令状なく拘束することも可能です。
勾留により拘束を受けると、それが起訴前であっても10日間、起訴後だと数ヶ月にわたり自由な生活が遅れなくなってしまいます。
このような事態を避けるため、速やかに弁護士へ連絡しましょう。被疑者や被告人には弁護士に相談する権利がありますので、弁護士を呼んで欲しい旨伝えて弁護活動の依頼をすべきです。
勾留に不満があるときは弁護士を介して異議申し立てを行うなどし、勾留の取り消しや期間の短縮などを目指すことも可能です。弁護士がついていても釈放の保証は得られるわけではないものの、刑事手続きの知識や経験を持たない方が対応するより成功確率を上げることができるでしょう。
また、勾留の要件を踏まえれば、「釈放するとそのまま逃げるかもしれない」「証拠の隠ぺいなどをはたらくかもしれない」などの疑いをかけられないようにすることが重要といえます。捜査機関から取り調べを受けた際、裁判官とのやり取りの際には、受け答えの内容や態度にも注意しましょう。