佐々木泉・水沼直己法律事務所 > 記事コンテンツ > 刑事事件の示談は自力で対応できる?民事との違いや弁護士の必要性とは
刑事事件は最終的に検察と加害者が対立する構図で手続きが進みますが、被害者が存在する事案においては示談の有無が結果を大きく左右します。
示談は裁判外で私的に行われる和解手続きですが、刑事事件においては加害者側による直接の接触は避けた方が良いケースも多いため、対応は簡単ではありません。では加害者側の立場としてはどう対処すればいいのか、自力では交渉できないのか、刑事事件における示談交渉について解説していきます。
「示談」とは、当事者間の話し合いにより紛争を解決する手続きのことです。裁判所を通さずに問題を終結させるため、時間的・経済的な面でメリットがあるといえます。
ただし示談の成立には当事者の合意が不可欠です。一方的な条件の押し付けでは成立せず、互いが納得できる内容でなければなりません。
示談が成立すると示談書や合意書が作成され、その内容に従って義務が履行されます。しかし示談の内容が法律や公序良俗に反する場合は無効となる可能性もあるなど、示談は当事者が自由に条件を決められる反面、適切な法律知識がなければ対応が難しいという側面も持っています。
また、民事事件では純粋に当事者間の権利義務関係の調整が目的となりますが、刑事事件では国家による処罰との関係で、示談の意味合いが異なります。
刑事事件においても、示談は加害者と被害者の間で行われる和解手続きに変わりはありませんが、その背景には刑事処分という国家による処罰制度が存在します。単なる民事上の損害賠償の問題を超えて、加害者の刑事責任に影響を与える重要な要素となっているのが実情です。
そのため刑事事件では金銭的な賠償だけでなく、加害者の反省の態度や真摯さも重視されます。被害者の心情に配慮した適切な対応が求められ、示談交渉の進め方そのものが加害者の人格や反省の深さを示す指標として評価される可能性があります。
また、刑事事件では示談交渉のタイミングも重要です。起訴前に示談が成立すれば不起訴処分の可能性が高まりますが、起訴後では刑の軽減にとどまることが多くなります。このような時間的制約の中で適切な交渉を行うには、法的手続きに精通した専門家の関与が不可欠といえるでしょう。
示談の成立は、検察官が起訴・不起訴を決定する際の重要な判断材料となります。
特に初犯や軽微な事件では、示談の成立により不起訴処分となる可能性がより高まります。不起訴処分となれば前科は付きませんし、逮捕されていたとしてもすぐに社会復帰をすることができるでしょう。
また、仮に起訴をされたとしても示談成立の事実は裁判において情状酌量事由として考慮されます。執行猶予の可能性が高まったり、刑期の短縮につながったりもします。
しかしながら、示談が成立したとしても絶対的に刑事処分を免れるわけではありません。犯罪の重大性・社会に与えた影響・加害者の前科などを総合的に判断して処分は決定されるためです。重大な犯罪や常習性のある事件では、示談が成立しても起訴される場合があります。
刑事事件における示談交渉では、特に弁護士の必要性が高いです。このことは、刑事手続きの複雑さ、被害者感情への配慮、そして示談が刑事処分に与える影響の大きさに由来します。
弁護士は法的な専門知識を持ち、刑事手続きの流れも熟知しているため、適切なタイミングで効果的な示談交渉を行うことができます。また、被害者の立場や心情にも配慮し、感情的な対立を避けながら建設的な話し合いを進めることも可能です。
刑事事件だと示談交渉に並行して取調べや裁判手続きが進行することもあります。この場面で弁護士が付いていれば、手続き全体を通じて一貫した弁護方針を立て、示談交渉を含めた総合的な弁護活動を展開することができるでしょう。
被害者との示談交渉は弁護士が対応するのが一般的ですが、加害者本人が示談交渉を行うことが法的に禁止されているわけではありません。加害者本人が直接被害者に会って謝罪し、示談の交渉を始めても違法ではありませんし、状況によっては問題なく成立させられることもあるでしょう。
しかし、本人が交渉を出向くことには多くのリスクが伴います。加害者本人だけでなく、その家族が代わりに交渉を行う場合も同様です。
加害者からの直接の接触は、被害者にとって恐怖や不安を与える可能性が高いのです。特に、暴行事件や性犯罪などでは加害者からの連絡そのものが被害者の心的外傷を悪化させる危険性があります。
また、法的知識の不足により示談条件の設定を誤ってしまうリスクもあります。適正な賠償額の算定、示談書の作成、法的効力の確保などには専門的な知識を要します。不適切な条件での示談を成立させてしまうことで、後々のトラブルの原因を作ってしまったり、刑事処分への好影響を期待できなかったりする場合があります。
すべての刑事事件で弁護士が必要というわけではありませんが、特に弁護士への依頼が重要なケースがあります。
上記のケースに該当するときは、弁護士に依頼することをご検討ください。